あるクラリオン星人のと対話


by bwv1001

N響のマーラー、大誤訳

 先日、行けなかった演奏会は、マーラーの「千人の交響曲」である。声楽はよかったらしいが、オケは酷かったらしい。

 友人がプログラムを確保してくれたので、ぱらぱらと見ていると、クライマックスの「神秘の合唱」に大誤訳があった。昔から指摘されている誤訳であり、もういい加減に直っているかと思ったら、まだ誤訳のままの様である。翻訳は岩下久美子という人のものの様だが、ひょっとしたら、新しい訳ではなくて、三十年くらい前の翻訳をコピーして持ってきただけなのかもしれない。

 どこが間違っているかというと、「すべての過ぎゆくものは 比喩にすぎない」という下りである。ここでは、nurは、悉く、という意味で使われているものである。岩下氏の訳を活かして、訂正するとしたら、「すべての過ぎゆくものは 悉く比喩である」とするのが正しい。

 ちなみに、古い翻訳だが、手塚富雄氏は、以下の様に訳しておられる。

 「なべて移ろいゆくものは、比喩にほからならず」

と、格調高く訳しておられる。この翻訳の初版は、昭和46年のものである。読売文学賞を受賞している、この時代の定番でも、しっかりと直っている。森鴎外の誤訳の復活は、N響はチェックしていないか、それとも、見識のある人が、団にいない、ということになる。マーラーの世界観に関する重要な部分であり、クライマックスの部分であるから、これは大誤訳である。

 誤訳大国と言われる日本であるが、プロだけで歌う千人というのは、これが初めてだそうで、そういう記念すべき公演で、いい加減な訳がされていた、という訳である。情けないことだ。


   2011年3月11日以降の日記より
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by bwv1001 | 2012-04-02 22:46